福岡高等裁判所 昭和40年(ネ)354号 判決 1965年8月30日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し、金五一万四〇〇〇円及びこれに対する昭和三九年八月一八日より完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用及び認否は
控訴代理人において
控訴人は訴外有限会社立花重機との間に本件ブルドーザの修理請負契約を締結し、該契約に基づき修理を完了して訴外会社に引渡したのであるが、その直後同会社は倒産して修理代金を支払わないのである。かかる場合控訴人は本件ブルドーザについて動産保存の先取特権を有し、若し右先取特権を行使することができたならば、当然債権全額の弁済を受けることを得たのである。しかるに被控訴人が訴外会社から右ブルドーザを引揚げ、更に第三者に転売してしまつた結果、控訴人は右ブルドーザについて先取特権を行使する機会を失い、修理代金債権の弁済を受けることができなくなつたのである。してみると控訴人が本件ブルドーザにつき有していた先取特権を喪失した損失と、被控訴人が自己所有の右ブルドーザにつき第三者の優先的権利である動産保存の先取特権の消滅したことにより受けた利益との間には、控訴人の所為である引揚売却を介し直接の因果関係のあることは明らかである。
と付加陳述した外、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
理由
当裁判所は 控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は左記説示を付加する外原判決理由と同一であるから、これを引用する。
控訴人は「控訴人は本件ブルドーザについて動産保存の先取特権を有し、被控訴人が右ブルドーザを引揚売却することにより右先取特権を喪失し、このため損失を蒙つた」旨主張する。しかし先取特権は債権者が債務者の財産につき他の債権者に先立つて自己の債権の弁済を受ける権利であり、債務者以外の者の財産について生ずる権利ではない。しかるに本件ブルドーザの所有者が被控訴人であつて、これを有限会社立花重機に賃貸していたものであることは当事者間に争がないのであるから、控訴人が訴外会社との間の修理請負契約に基づき同会社に対し修理代金債権を有していても、同会社の所有物ではない本件ブルドーザについて控訴人が動産保存の先取特権を取得する理は存しない。したがつて控訴人が本件ブルドーザにつき先取特権を有することを前提とする控訴人の主張はこれを採用することができない。
よつて本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文の通り判決する。